【 Still Love Her 】

……今更。

自嘲めいた笑みを口元に浮かべて、そして疲労を背負い込んだ身体をぐったりと褥に落とした。

今朝、薫に頼まれて味噌と醤油、それに塩と米を買いに出かけた。
買い物ごとき何の事はない。
いくら腰に刀を差していようと商売人が咎めるわけでも道往く人が振り向くわけでもない。

だけど。

買い物へ行く道すがら。
不意に、目の前を探してしまう。あの人の後姿を。
買い物の時はいつもあの人の後ろを守るようについて、歩いていた。
その癖は十年過ぎた今も身体に染み付いているのだと今更ながらに思う。
最早どこにもいない、あの人の姿。
今更思い描いた所でこの身が慰められるわけも無い。

ああ、だけど。

もし今。
ここに、あの人がいたのなら。
静かな夜を切り裂くように、あの人の喉に唇を寄せていただろう。

今更、想っても仕方の無い恋だけれど。