【 想人 】

ちくり、と頬の傷が痛む。
そんな気がした。
君を見ていると何故か。
この傷が、痛み出す。

君が机に向かう後姿。
知らない女性に見えた。
そのまま振り返らずに、
どこかへ消えてしまいそうで。

「まだ、休まれないのですか」

顔を上げれば、机の上の蝋燭を燭台に移して手に持つ君がいる。

「いや……」
「どうか、しましたか」

何でもない。
そう言い掛けた言葉をいつの間にか飲み込み、代わりに指が己の傷に触れている。

「痛みますか」
「そんなんじゃ、ない」

痛むのは、傷?
それとも、心?

膝をつき視線を揃える君は少し不安な顔をして俺の傷を見る。

「この傷は……」
「春に負った。それだけだ」

君はそれきり何も言わず、静かに自分の褥へと戻る。
俺は刀を胸に引き寄せ、足元の蝋燭を吹き消した。

この傷は。
君が何を伝えたかったのか、あの時は知らずに。

この傷は。
君を想う男が、
君を想う俺へと刻んだ、証。

「ともえ」

呼べど還らぬ人の、想いの証。