【 隠して、雨の中へ 】

あ、と小さく声を漏らして躓いた巴を咄嗟に支えたのは、優しさなんかじゃない。
身体が勝手に動いた。……それだけだった。

「あの……」

腕の中で俺の顔を見上げてくる真っ黒な瞳から目がそらせなくて、

その中に浮かぶ自分の顔がひどくうろたえていて、

……聞こえてくる雨音が、心臓の鼓動のようだった。

「ありがとう、ございます」

それだけだったのに。

君が、その頬を染めるから。

だから。

「……すまない」

思わず抱きしめてしまったのは、気まぐれなんかじゃない。

ずっと知りたかった温度だったから。

せめて、この雨が止むまで。

「……いえ」

隠して。どうか、このまま。