【 二人きり 】

チリン、と風鈴の音で目が醒めた。

額にうっすらを汗をかいている。

枕かわりに積んでいた本を崩しながら起き上がれば、昼を過ぎてやや傾いた日が足元に差し込んでいた。

静かな午後だ。

廊下にも階下にも人の気配が無い。皆どこかへ出かけたのだろうか。夏特有の騒がしい蝉の声さえ、どこか遠くに聞こえる。

ここに、一人きりにされたような……。

漠然とした不安のような、

それでいて心地よい孤独。

人の気配が無い事で安堵を得る、寂しい生き物だ。俺は。

だけど。

「緋村さん」

トントンと階段を上がってくる足音を聞きつけた時、胸の中で何かが脈打った。その後で聞こえてくる声も、目に入る姿も想像通りだった。
何一つ違えていない。

君が呼ぶ、俺の名も。

「……買い物から戻ったら誰もいなくて」

「俺も……寝ていた」

「じゃあ、今は……」

ここに、二人きり。

暑いですね、と水差しに手を伸ばした君を。

暑いと分かっていながら抱きしめた。

一人きりじゃないのだと、教えてくれる君を。