【 足元の雪 】

雪を踏みしめる音が背中をついてくる。
少し歩幅を緩め歩調を落とすと、その音は少し近くなった。

道はただ白く、続いている。
目線を上げても、そこはただ白い世界が広がっているだけだ。
もう辺りは薄暗い。日が落ちる前に、家に帰り着きたい。

相変わらず背後を追ってくる足音は途絶えない。
少し進んで立ち止まり、振り返る。
編み笠を目深にかぶった人影はゆっくりと顔を向けてきた。

「……巴」

呼びかけに無言で答えたその姿は次第に近付き隣に並ぶ。
そして、遠くを見て言った。

「もう、少しですね」
「ああ」

背負った荷は軽い。この調子ならば日暮れに間に合うだろう。

「行こう」
「はい」

そしてまた、歩み始める。
今度は、並んで。

「……巴」

思い出して、振り向いてみた。
そこに続くものは白い雪ではなく赤い血の道。
残されたのは己の足跡だけ。
追う者は、もう。

その姿さえ、二度と。