【 思い川 】

川沿いに咲いた紫陽花の薄い花弁が、音を立てて水面に落ちた。

梅雨を終えようとしている京の町は蒸し暑く、間近に迫った夏を厭うような風が吹いていた。
日差しを避けて歩く巴の後ろを緋村が付き従っていた。彼の腕には買い物をした荷物がある。
「随分時間がかかってしまいましたね。女将さんに怒られてしまうわ」
「仕方ないだろう、先日の大雨で橋が修理中だったんだから。迂回して来たと正直に話すさ」
「もう、日暮れです」
「ああ」
買い物を頼まれた巴とそれに同行するよう頼まれた緋村。二人は買い物を済ませた帰り道の半ばにいた。
川のせせらぎが聞こえる。
巴はふと、足を止めた。枯れ落ちそうな紫陽花の花を見つけたのだ。

「もう、夏ですね」

緋村は何も言わず、立ち止まる巴の隣に並んだ。身長はそれほど変わらない。揃う視線で彼女の横顔を見ると、その目がひたすら水面に注がれている事を知った。
「巴?」
「……人の一生は、まるで川に似ています」
「川に?」
「その深さは、まるで」

そこまで言って声を止めた巴もまた、緋村の顔を見た。
そこに刻まれた刀傷に視線を沿わせ、そしてゆっくりと目を伏せた。

「帰りましょう」

緋村をその場に置き去りにするようにして歩き出す巴の背中を、緋村は数歩遅れて追いかけた。

「まるで……?」

まるで、想いのように。