【 夏の灯火 】

夏の終わりの、ささやかな村の祭りだった。
村に新しくやってきた若夫婦は神社へ続く参道に並んだ屋台の前を浴衣姿で歩いていた。

若い男は群青色の浴衣。だが、その懐には脇差を目立たぬように隠している。
その男に寄り添う女は薄紅の浴衣を艶やかに着こなしていた。

「人が多いな」
「年に一度のお祭りと聞きました」
「ああ、風車だ」

並ぶ店の一つに風車が並んでいる。
千代紙と竹細工で造られたそれは夜の涼しい風に勢いよく回っている。
巴はそれを見て、そして夫の横顔を見る。

「欲しいのですか?」
「まさか。……懐かしいなと思って」

巴は夫がいつも幼い頃から持っている独楽を大事にしていると知っている。
人の波を避けるようにしてその店に行き、風車を一つ買った。

赤と金銀の千代紙が回る。
それはあの赤い雨の夜から回り出した己の運命にも似ている。

「どうぞ」
差し出された風車を剣心は照れ臭そうに受け取る。
そしてそれを手に、もう片方の手をさり気なく妻の手に伸ばす。

「行こう」
「……はい」

繋いだ指先が優しく熱を持つ。
人と人の間を縫うように歩きながら一番奥の境内へ。
子供のはしゃぐ声、大人たちの笑い声、商売人の呼び声。色々な音がこの一帯を占めている。祭り独特の雰囲気を満喫しながらやっと本殿の前にたどり着いた二人は賽銭を投げて手を叩いた。

二礼二拍手一礼。
動きを揃えながら閉じた瞳の奥、願いは二人違っても。
共に。

「……あら、花火」

参拝を終えて引き返すと境内の端で子供たちが花火を楽しんでいる。
細い火の線が散る。
爆ぜる音に混じって落ちていく火の玉。

「田舎の祭りらしいな」
「祇園祭はもっと大きくて賑やかでした」
「俺はこういう祭りの方がいい」
「はい」

いつの間にか離れていた手を繋ぎ直す。

「帰ろうか」
「はい」

祭りという場で羽目を外せるほど気楽な身分では無かった。
できる事なら人目を憚って生きていかなければならない。
だが、今夜の祭りだけはどうしても行きたかった。
この夏の、最後の輝きをこの目に。

「巴」
「はい?」

小さな灯火でも、きっと。

「来年も、来よう」

証になる。

「はい」

それは、二人で過ごした最初で最後の夏の記憶へと、変わる。